2023年1月 今月の顔 橋本学 特別専任教授

2023年1月号から今月の顔、橋本学 特別専任教授をご紹介します

「定説」を疑え

~地震研究40年の教訓~

理工研究科 建築・都市環境学専攻
橋本学 特別専任教授

1984年 京都大学大学院修了。博士(理学)。同年 建設省国土地理院入省、1997年 京都大学防災研究所助教授、2001年 同教授を経て、2022年より現職。

六甲山の不思議

私は国土地理院・京都大学で約40年間にわたり地震の研究をしてきました。この間、多くの「定説」が覆る経験をしました。例えば、神戸の北にそびえる標高931mの六甲山は、六甲断層帯の100万年間の活動により隆起した、と教わりました。ところが、阪神・淡路大震災では六甲山は12cmしか高くなっていません。地震が1000年に1回程度で起きてきたとすると、12cm×1000回=120mしか隆起しません。一方、紀伊半島には、大した地震もないのに隆起しているところが見つかっています。同じように地震後20年の間にゆっくりと六甲山も隆起しているかもしれないと考え、GPSで高さを測りました。けれども、全く変化はありません。じゃ、どうして六甲山は高くなったのでしょう?もっと頻繁に断層が動くのかもしれません。あるいは1995年とは違う断層が動くことも考えられます。

「だいち2号」で見つけた紀伊半島の隆起域
(茶色い部分)

六甲山最高峰でのGPS観測

東北沖地震

2004年のスマトラ地震や2011年の東北沖地震は、「沈み込むプレートの年代が古いためM9級の地震が起きない」とされていた地域で発生しました。また、東北沖地震前には太平洋沿岸は沈降していました。地震で隆起すると予想していましたが、地震でさらに沈降しました。これでは日本列島が沈没する、と心配しましたが、1年ほど経って隆起に転じ、今も続いています。何が起きているのか、謎は深まるばかりです。

「定説」とは?

近代的な科学が日本に入ってきてから150年が経過し、この間多くの成果が挙がりました。しかし、地球の営みに比べればほんのわずかの時間にすぎません。実は「定説」とされるものの多くは、小さな成功体験をもって、全てわかったと思い込んだ結果です。若い皆さんには、常に「定説」を疑いその根拠を考えることを勧めます。多くは科学的な根拠がないものかもしれません。それらを捨て去り、新しい概念を打ち立てることで、科学は進歩してきました。皆さんがこの活動の次の担い手となることを期待しています。

東日本大震災で沈降した女川港の岸壁(2012年3月10日撮影)

学園広報誌「TDU Agora」Vol.60(2023年1月号) 今月の顔より転載

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