2022年5月 今月の顔 高橋俊介 助教

2022年5月号から「今月の顔」、理工学部 生命科学系の高橋俊介 助教をご紹介します

Nature Communications誌への掲載

~人工知能による酵素の発見~

理工学部 生命科学系
高橋俊介 助教

2016年 群馬大学大学院 理工学府 博士課程修了 博士(理工学)。同年 日本学術振興会特別研究員 PD、神戸大学 科学技術イノベーション研究科 学術研究員を経て、 2020年より現職。

2022 年 3月、「Machine learning discovery of missing links that mediate alternative branches to plant alkaloids」というタイトルで私の参加する研究グループの論文が、英国学術誌Nature Communicationsに掲載されました。本研究は、神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科のChristopher J. Vavricka准教授、神蓮沼誠久教授、近藤昭彦教授らとの共同で実施されました。

バイオエコノミー社会の到来

近年、ゲノム解析やゲノム編集、そして、人工遺伝子合成などの革新的技術と人工知能及び情報技術との融合により、バイオテクノロジーが広範な産業の基盤を支える「バイオエコノミー社会」が世界的に到来しつつあります。日本でも、2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現することを目標として掲げています。近い将来、『第五次産業革命』となりうるバイオ産業において、日本が世界に先駆けてリードするためには、基盤技術となる合成生物学の発展を加速させる技術の開発が強く求められています。

人工知能による酵素の発見

酵素のリガンドとの結合部位

本研究では、植物由来の人工代謝経路を微生物に実装することで、元来微生物ではつくらない医薬品原料となる有用物質の生産技術の開発を実施しています。
この技術開発を達成するためには、多数の酵素反応からなる長い代謝経路を構築する必要があります。しかし、堅牢な人工代謝経路を構築する上で、一連に繋がった代謝経路の中で一部欠けた酵素が存在しているということが、大きな課題として残っています。そこで、本研究では酵素の立体構造だけでは予測困難な新たな側面を解き明かすために、機械学習アルゴリズムを開発し、その予測モデルを適用することで、「ミッシングリンク」となる医薬品原料生産に必要な酵素の発見に至りました。こうした、AI×バイオを活用した技術は、医薬品原料や機能性素材、そして、化成品の製造に応用することが可能であるため、今後のバイオ産業の発展に大きく貢献することが期待されます。

本研究で発見した酵素の立体構造

学生の皆さんへ

私が科学者を目指したきっかけは、努力をしたら自分は何者になれるのだろうかという、自分の可能性を試してみたいという気持ちからでした。そんな私はスーパーマンではありませんが、泥臭く地道に研究活動に取り組むことで少しずつ成功体験を得ることができています。学生の皆さんも視野を広く持ち、その中で興味がわいたことに果敢に挑戦してください。何か新しいことに挑戦する時には失敗はつきものです。しかし、失敗を恐れず、むしろ、今のうちにできるだけ多くの失敗をし、自身の成長の糧として取り組んで頂きたいと強く望んでいます。

神戸大学Vavricka博士と筆者(左)

学園広報誌「TDU Agora」Vol.53(2022年5月号) 今月の顔より転載

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