~水性二層系培養液を用いた三次元富裕培養法の構築~
浮かぶ液滴内で細胞塊を培養
~水性二層系培養液を用いた三次元浮遊培養法の構築~
近年の医療分野では、細胞を用いて人工的に組織や臓器を作製し、傷害を受けた組織や臓器の機能を回復させる再生医療が注目されている。
ヒトを含む多細胞生物の組織や臓器は、複数の細胞からなる三次元構造を有する。
三次元細胞組織へと構築する技術は、3Dセルプリンティングや細胞シート工学等数多く開発されているが、現在の技術では、心臓や肺などの大きな臓器の再生構築は困難で、更なる細胞組織構築技術が期待されている。
そこで、水性二相系(Aqueous Two Phase System、以下ATPS)法を応用して、水と油のように二相に分離する性質を持たせた溶液中に油のように浮かんだ液滴の中で細胞を培養し、細胞凝集塊を形成することを目的に、その浮遊培養システムの技術開発を進めている。
ATPSとは、培養液等の水性溶媒に、ある特定の組合せで水溶性の高分子ポリマー等の溶質(例えば、Poly-ethylene glycol(PEG) 、Dextran(DEX))を溶解させると、水と油が分離するように二つの相(層)に分離した液体が得られる現象である。
このATPS法を応用した浮遊培養法は、縦方向に立てたパイプ型培養槽の内部に比重の小さい液相(PEG相)を満たし、比重の大きいDEX相に細胞を懸濁した液滴をパイプA端より滴下する(図1(1))。
細胞懸濁DEX相液滴はPEG相よりも比重が大きいためパイプ型培養槽を重力によりゆっくり沈降するが、PEG相に対してB端からA端方向に流れを付与することで、パイプAB間においてDEX相液滴が常時浮遊している状態が保持できる(図1(2))。この浮遊DEX相液滴内部の細胞を液滴内に隔離したまま浮遊培養することで、底面、壁面などに接着することなく細胞凝集塊の形成が可能となる(図1(3))。この浮遊培養の原理に基づいて設計・製作したATPS浮遊培養システムの概要が図2である。
浮遊培養実験では、PEG相で満たされたパイプ型培養槽内に細胞を懸濁したDEX相液滴を20μL滴下すると液滴が図3のような長楕円体形状が得られた。DEX相液滴の内部に細胞を隔離し、液滴を保ったままで浮遊状態が維持されることも確認でき、最大直径500μmの細胞凝集塊が形成できた(図4)。
現在のシステムでは5時間までの培養が可能であるが、今後は更に長時間培養が可能なシステムを製作し、組織化したスフェロイド作製の検討を進める。
◆様々な細胞製品の製造に適用可能
◆再生医療分野、創薬分野での活用
◆より簡便な装置と手技で細胞凝集塊の作成が可能
◆広範な種類の接着性細胞で凝集塊の作成が可能
◆細胞だけでなく細菌のバイオフィルム形成も可能
出願名称:浮遊培養装置及び浮遊培養方法
出願番号:特願2019-191368
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浮かぶ液滴内で細胞塊を培養
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