顧問・学長対談「コロナの経験から大学に期待すること」その1

毎年恒例「顧問・学長対談」。学術顧問 吉川弘之先生と学長 射場本忠彦がオンラインで対談しました。対談の一部を2回にわたりご紹介いたします。

収録:令和4年3月3日
出席者:吉川弘之学術顧問、射場本忠彦学長、平栗健二統括副学長
※記事の最後に出席者のプロフィールをご紹介しております。

〈Keyword〉
実学、大学が領域を越えた新しい学問を作る、学生のスキルアップ、〇〇の融合、工学、学問の見直し、学問は新しい時代を迎えて変化、学問は権威ではない、同じ地平に立つ、横串の組み合わせは爆発、学問共同体

まず始めに、学術顧問 吉川弘之先生よりコロナ禍の経験から「学問の領域を越えた新しい学問の必要性」についてご提言をいただきました。第1回目スタートです。

コロナの経験からわかったこと ~ 新しい学問の必要性 ~

吉川学術顧問
新型コロナウイルスの感染者が少なくなってきて、出口にどういう道があるのかというお話があります。コロナでの経験には良いところ、また非常に辛い経験もありました。この経験を非常に大事なものと受け止め、大学が1段ギアを上げることによって、新しい方向に向かって行けると良いと思います。
コロナの状況の中で、命を守る、医療をしっかりする、そうすると経済がよくなる、このような政策はないのかと考えるとき、例えば私の専門は機械工学ですが、機械工学だけにこだわっていてはいけないのです。多くの大学で、学科同士が競争し、うちのほうが良い学生だというように競争も大事ですが、共同体として、学問を越えて仲良くやることが必要です。学生と先生の関係も、勿論先生は歴史的学問を知っています。けれども分からないことをやっていくなら、学生と先生が一緒に考えて、同じ地平に立って違う学科の先生同士も共同体を作る、一方で先生と学生の共同体も作る。大学が領域を越えた学問を新しく作れば良いと思います。
環境問題に応えることができる工学技術、災害に強い工学技術といったときに特定の学科ではなく、いろいろな学問が集まってくるということになります。コロナを経験して、そのような学問は未だ無いという時代に入ったことが分かったのではないかと考えています。

東京電機大学には創立以来守ってきた「実学」があります。今の実学というのは、一つ一つの実学ではなくて、いろいろな学問が協力しあってやるのが実学だと思うのです。そのような学問を作るのが大学の責任となるでしょう。
では、どうやって教育するか。残念ながら社会がそういう仕組みを作っていません。私は社会全体で仕組みを作り、知恵を増していく、皆で考えることに価値があるということを大学が示すことができるようになれば素晴らしいと思います。

射場本学長
吉川先生が仰った「大学が領域を越えた学問を新しく作る」ということ、正に私もそのように考えます。しかし同時になかなか難しいところもあるというように感じております。大学に40年近く在籍していますが、大学で物事を決めるときのタイムスパンの点、また、異なる分野の垣根をなかなか越えられないという点など、フットワーク軽くというように、なかなか進まないと感じています。
また、文化系と技術系のマッチングについて、IoT化が進むほど重要になってくると思っていますが、なかなかうまくいきません。一度、スクラップ・アンド・ビルドというのも有り得ると思いますが、なかなかというのが本音です。
今、いろいろな物事が、つながりなく別々に起きている、近視眼的なことが世の中に沢山起きているという認識を持っています。私個人としても至らないところでございますが、吉川先生のお話にありましたように、物事をトータルに見るという点、教育においてまだまだ足りないように思います。今後、自分自身が専門の分野でやってきたことを社会にどう還元していくかということも含めまして、学長職を務める間、いろいろやらなければいけない、何とか、串刺しができる教育というようなことを、是非やっていきたいと思っております。

建学の精神・大学の理念を具現化する取組み

平栗統括副学長
コロナ禍の非常に混沌としている中での教育、特に「工学教育は」という視点で吉川先生からご示唆を頂きました。本学では教育に関する改革の観点から、関連する取組みを進めています。
令和4年度から学部カリキュラムの見直し作業を全学的に進め、令和4年4月からスタートしました。この改編には、柱が大きく2つあります。本学の建学の精神「実学尊重」と、教育・研究理念「技術は人なり」を具現化することです。
建学の精神「実学尊重」に関するところでは、企業の人事の方、企業にお勤めの本学OBから、本学卒業生は、よく手が動く、ものづくりができるという評価をいただいています。それをもっと明確にということで、ハンズオン教育と言われる、ワークショップや実験・実習を充実させつつ、学生の能力や理解度を向上させていこうと、各学科で教育の柱の見直しを通じて、機械加工、回路の設計、「ものづくり」の楽しさを学ぶことを行いました。
初代学長 丹羽保次郎先生のお言葉であります、大学の教育・研究理念「技術は人なり」ですが、現代風に言えば、倫理教育が非常に重要であるということにつながります。
技術者・研究者倫理、情報倫理のような倫理教育を根本から体得する、電大のスタンダードみたいな形で、安全教育も含めた倫理教育を全学生にしていきます。
令和5年度に向けては、大学院のカリキュラム改編を鋭意行ってまいります。こちらは正に吉川先生のお話にありました共同体、学科や分野を越えたというところとも合うかと思います。例えば、工学と数学のデータサイエンスとか、工学と医学の医工学など、現代社会において、いろいろな学際領域の展開が求められているところもあり、その辺りを具現化できるような、関係性をうまく組み合わせるような方策をということで進めていきます。

私が参加させていただいています日本工学教育協会の分科会では、ちょうど産業界の人材育成と大学教育、これをどのように結び付けていくかということで、大手電機メーカーの人材担当責任者の方々と、工科系大学の先生方とで意見交換をさせていただく機会がありました。
最近、「モノづくり」、「ヒトづくり」、「コトづくり」というのが話題になっています。それを工科系の大学としてどう具現化していけばよいか、日々頭を悩ませています。技術を継承しつつ、学生の能力を高めていくことが必要だと感じています。

吉川学術顧問
ハンズオンということで、現実の行動に重ねて教育するカリキュラムの改革を実行されているというお話がありました。
産業界が欲しているものを新しく教えようとしてもそれは簡単ではありません。それは、産業界に入ってやるしかないのです。産業界に入ると、体系的知識を得るのに時間がかかります。平栗先生のお話のように、何を教えるにしても、学生のスキルアップも必要なのです。


顧問・学長対談(前半)をご覧いただきありがとうございました。
学術顧問の吉川弘之先生から、本学の建学の精神「実学尊重」にも触れながら、大学における分野、領域を越えた新しい学問を作ることについてのご提言がありました。
理工系にご興味、ご関心がある方はもとより、広く皆様に共有いただければ幸いです。

対談の後半は下記からご覧ください。


出席者紹介
吉川弘之学術顧問:日本学術振興会学術最高顧問、産業技術総合研究所最高顧問、2009年4月から本学学術顧問。
射場本忠彦学長:北海道大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、工学博士。東京電力株式会社を経て東京電機大学工学部に着任。2019年10月から現職。
平栗健二統括副学長:東京電機大学工学部卒業。同大学院工学研究科博士課程修了、工学博士。2018年4月から現職。理事・工学部教授。

本件に関するお問合せ先
事務局:学校法人東京電機大学総務部企画広報担当

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