令和4年度 PBL教育支援プログラム 成果報告「バイオデータ解析」

2023.04.01

開講学部 理工学研究科/生命理工学専攻
科目名 バイオデータ解析
担当教員 【理工学研究科/生命理工学専攻】
根本 航

Q1 PBLを導入した意図・目的

理工学研究科・生命理工学専攻では、2015年度より、様々なバイオデータを理解し、計算機上で取り扱うスキルを学ぶ機会を提供すべく、本科目を設置し、多様なデータを取り扱うスキル習得の動機付けを行っている。受講生の専門分野は大きく異なっている。計算機の使用に習熟した学生もいれば、環境微生物の知識が豊富な学生もいるため、共同作業を通じて学び合うことができる環境構築を目指し、本科目ではグループワークを取り入れている。計算機の使用に長けた学生はデータの解析を、生命科学の知識が豊富な学生は解析結果の解釈の立場から貢献することが期待される。
2021年度からは、埼玉県比企郡のワイナリーで醸造された天然酵母を用いたワインをメタゲノム解析し、そのデータを学生に提供して解析させ、最終発表会を行っている。このテーマ自体が学生の発案に基づいている。単年度で終了するテーマではなく、今後、本講義が続く限り、年度ごとの解析結果を蓄積させ、結果を比較し続けることを念頭においてアイデアをださせた。前年度、前々年度の受講生をTAとして雇用することで知識と解析のコツや課題を継承する。
PBLにおいては、TAの関わり方の工夫が問題となる。自分たちの解析結果と比較した解析が行われるため、TA自身の知的好奇心を刺激し、積極的な参加を促せると期待している。

Q2 授業におけるPBLの実践方法

【支援費の使い方・使用の効果】
学生の理解度についてのフィードバックをサポートするサービス(Slido)、学生同士の共同作業を促進するサービス(Miro)を利用した。Slidoは無料枠のみで実施した。
前年度の受講生である大学院生等をTAとして1名雇用し、教員と共にアドバイザーとしてデータ解析を支援した。メタゲノム配列解読にかかる費用は、本支援プログラムの予算では支出しなかった。メタゲノム解析に必要な計算機環境、データバックアップ用HDDは、情報分子生物学研究室に設置されているものを提供したため、本予算は使用しなかった。

【運営方法、課題への取組方法】
履修生を4人のグループに分け、メタゲノム配列データを与え、グループごとにテーマを設定させ、コンピュータ上で解析を行わせた。各グループの進捗状況に応じ、バイオデータを提供するデータベースや、様々なデータの解析ツールを紹介し、学生の自発的なデータ解析と情報収集を促した。結果として、どのような微生物由来の核酸配列がワインに含まれているか、それらの系統関係など幅広い興味と関連づいた解析が行われると期待した。しかし、本科目中盤で、昨年度の受講生による最終発表会の動画をみせたことにより、彼らの解析がお手本であるかのように誤解させ、誤った誘導をかけてしまったことで、今年度受講生の興味の幅を狭めてしまった。

Q3 授業における成績評価方法

1.データ解析への貢献度
(1)解析プログラムの作成に携わった数を考慮した。
(2)作図やその解釈についての議論を通し理解度を評価した。
2.解析対象についての情報収集への貢献度
(1)解析対象についてどの程度広く深く理解しようとしているか議論を通して評価した。
3.プレゼンテーション資料作成への貢献度
(1)作成を担当したスライド数を評価した。
(2)Miro上で共有されている資料の準備状況をもとに、スライドがどの程度正確に作成され、推敲を繰り返したかを評価した。

Q4 学習成果の可視化への取組み

【Slidoを利用した理解度チェック】
指定した内容を記述してもらい、匿名でSlidoに投稿してもらった。記述内容は全員に自動で共有される。その場で、添削を行うなどしてフィードバックを行った。
Slidoのアンケート機能を利用し、理解度チェックなどのアンケートを行い、各自がどの程度理解しているか、または、他のメンバーがどの程度の理解度かを互いに把握し合いながらグループワークを進めた。

【Miroを利用したプレゼンテーション資料の共有】
他グループに自グループの準備状況が共有され、同時に、他グループの準備状況が共有され閲覧できることで、進捗の遅れを認識してもらうことができた。

Q5 PBLを発展させるための課題

【グループ内・グループ間での課題解決進捗のばらつき】
グループ内での学生の力量差や意見の食い違いが学習の進行を妨げることがある。これを解決するために、次の工夫を行った。
・グループ内の役割分担を明確にし、各学生が担当する役割を理解させた。
・メンバー毎のスキルにばらつきがあるため、昨年度、本科目を履修した大学院生をアルバイトとして雇用し、技術的なサポートをしてもらった。
・Notionを導入し、グループ内で共有された情報が、即座にグループ間でも共有される仕組みを構築した。
・Miroを導入し、ワークスペースをプレゼンテーション資料作成の場として全体で共有しつつ、発表準備をしてもらった。他のグループの発表予定内容や試行錯誤をも確認しながら自グループの発表資料を作り上げる作業をしてもらった。

【問題設定難易度のばらつき】
学生達が自主的に問題を設定するため、その難易度が大きく異なってしまう場合がある。また、グループワークでは役割分担をするため、担当する作業にも難易度の差ができてしまう。これを解決するために、以下の工夫を行った。
・学生が担当する役割の難易度、各学生のスキルを考慮し、個別ミーティングの機会や情報提供を行った。
・学生達自身で問題解決に向かえるよう、Miroのフレームワークの利用を促し、スムーズな進行を促した。

【学生の自発的な取り組み意欲のばらつき】
学生自身の能力や成長に対する認識にアンバランスが生じることがあります。これを解決するために、以下の工夫を行った。
・メンバー間での意見交換を促すため、進捗にあわせ、講義時間外にグループミーティングを実施してもらった。
・Miroのコメント付加機能を活用し、不明確な説明や、不正確な記述には担当者を直接指定して質問を行った。

【データと解析結果の公表】
解読した配列データを公共データベースに登録することで、本講義を受講した学生の貢献が全世界に向けて公表されることになる。ただ、解析対象としたワインの製造元に何かしらの影響を及ぼす可能性もあり、現時点では控えている。同様に、サイエンスインカレのような場でデータ解析結果の発表をさせたいが、非開催であり果たせていない。

Q6 授業の概要と進め方

本講義では、無濾過ワインに含まれる核酸配列を解読し、ワイン中にどのような生物種(酵母、乳酸菌、そしてウイルスを含む)が存在するか明らかにする。その過程で、ゲノム、DNAまたはRNA配列、遺伝子配列、タンパク質のアミノ酸配列などのデータの取り扱いに習熟する。取得したデータを自分達が選んだユニークな観点で解析し、グループ単位で発表してもらう。また、前年度以前に履修した先輩達のデータとも比較することで、微生物についての理解を深める。グループ分けに際しては、履修者の生物学関連知識、コンピュータを利用した解析技術のばらつきを補正し、コンピュータスキルが無い人が不利にならないよう最大限に考慮する。
第1回〜第4回
(1)コマンドライン操作実習
(2)解析環境整備
(3)解析手順の検討
(4)解析対象についての調査
第5回〜第9回
(1)昨年度発表会動画視聴
(2)解析
(3)解析対象についての調査
第10回〜第13回
(1)データ整理と議論
(2)発表準備
第14回
(1)最終発表会


〇PBLを主体とした教育への取組みに対する支援(PBL教育支援プログラム学内公募)

東京電機大学教育改善推進室では、平成23年度から「学生が主体となって学ぶ」形式を取り入れた、いわゆる「PBL(Problem-Based Learning又はProject-Based Learning)」による教育の開発・運営を「PBL教育支援プログラム」として支援し推進しています。
PBL教育支援プログラムは、これからPBLを取り入れていこうと考えている教員やすでに実践しているPBLをさらに工夫しようと考えている科目を対象に支援を行い、その実践と成果を学内の関係者と共有し、学生の学びを主体とした教育の推進を図ることを目的としています。