令和元年度 PBL教育支援プログラム 成果報告書「ワークショップⅠ」

2020.04.01

開講学部 工学部/機械工学科
科目名 ワークショップⅠ(エンジン分解・組立)
担当教員 酒井 則男

Q1 PBLを導入した意図・目的

本科目は、機械工学科1年生の前期必修科目で、教材のエンジンを使いながら「エンジン構成部品の構造及び機能の理解を深める」、「部品の材料知識を学ぶ」など機械工学の学習に必要となる予備知識を習得する。2017年度から本科目に課題解決型授業(PBL)を導入することで、「学生の自主的、自立的な学びを引き出す」、「問題の本質を理解し、解決する能力を身に付けさせる」など、専門知識の「深い学び」と「問題解決能力」を育成することが主な目的である。

Q2 授業におけるPBLの実践方法

【「ワークショップⅠ、エンジン分解・組立」授業デザイン】
図1のように「課題解決型授業(PBL)」を主体とする「実践的なAL」と「指導の4活用」の手法を組合わせた授業デザインを実践することで「深い学び」と「問題解決能力」の育成に結び付けさせた。

図1 「深い学び」と「問題解決能力」の育成に結び付けた授業デザイン

【PBLの実践方法】
本授業への具体的な実践方法は、図2のステップで実施する。
1.グループ学習前
先ずは、グループ学習前の「動機づけ」が大切である。学生が「授業を受けたい」「学びたい」という気持ちを呼びおこす働きかけで、大きく3つのアプローチがある。
2.学習教材
課題学習の教材は、授業前学習、グループ学習、成果発表、そして報告書としても活用できるような教材に工夫をした。
3.グループ学習
学生は、PBLのグループ学習を通じて問題の本質を理解し、解決する能力を身に付けさせる。
4.成果発表
成果発表は、ルーブリックの基準を用いて評価を行う。
5.授業前学習
「反転授業」により、2回目の授業を通じて、より理解を深めることができる。

図2 「ワークショップⅠ、エンジン分解・組立」PBL取組み方法

ここでは、「3.グループ学習」、「4.成果発表」の事例を紹介する。
【グループ学習】
グループ学習は、5班に分割し、3~4人が1班になり、各自の役割分担を決めながら課題学習を中心に授業を進める。

図3 グループ学習の進め方

図3のように指導者(教員、TA、学生職員)は、各班を順番に巡回しながら課題学習を中心に質問を行い、学生と意思疎通を図りながら常に学生同士で活発な意見交換がでるよう潜在的な能力を引き出し、チーム力、コミュニケーション力を向上させる。
例えば、図3の2回目課題1)“Flywheelに何故、キーがあるのか?”を考えさせる。
そうすると、見た目で分かり易いので、“Flywheelは重量感があり回転しながらトルクをCrank shaftの軸に伝達するためにキーが付いている”と答えが出てくる。
次に、それ以外の機能として“Flywheelのキーと磁力板の位置関係”を更に考えさせ、学生の潜在的な能力を引きださせる。
すると、このキーによってFlywheelの磁力板と着火コイルが常に同じ位置を保ち、そして、図4のカットモデルを使うことで、今まで外観では見えなかった“Pistonの動きまで連動”していることが分かり、これにより、毎回、「最適な点火時期が得られる」のだと理解できる。
ここまで理解出来たら、最適な点火時期の「Piston位置」も更に考えさせる。
このように、課題の本質を考えることで、学生の学び方が変わる。

図4 グループ学習の課題事例

【成果発表・質問】
授業の最後の時間を使って、グループ毎に成果発表を行い、その後、教員から質問を行うことで学習理解の深化を確かめる。
まず、成果発表は、聞き手に興味を持つように工夫することを重点的に推進する(図5を参照)。
例えば、“エンジンを冷やすためのフィンが付いている”と単にその構造を示しても聞き手には伝わりにくいので、そこで、「学生の工夫」は手に持ったFlywheelを回転させながら説明するなどの行為を付加する。そして、教員は良い発表は大いに褒めると、学生はヤル気の向上が見られる。
一通りの発表が終わると、教員から発表者に質問を行い、学習理解の深化を確かめる。
先程の2回目の課題1)を深化させた質問として、教員が“最適な点火時期のPiston位置は?”と質問すると、深く理解した学生は、“混合気が燃焼する時間を考えればPistonが上死点に達する少し手前が最適な点火時期です。”と答えられ、理解を深めていれば、答えは簡単である。
このように、成果発表・質問に行うことで、更に深い学習へ深化させ、応用範囲が広がり、全体の学習成果が向上する。

図5 成果発表

Q3 授業における成績評価方法

成績は、授業学習:40% 、報告書:60%の比率で評価を行う。
授業学習は、ルーブリックの基準を用いて評価を行う。
まず、予め、ルーブリック評価基準を学生に明示することで、その最高点が取れるように学生同士が協力しながら意欲的に授業に取組む。
評価項目は「グループ学習」、「発表」、「質問」の3項目で、3点満点の平均点で採点し、発表を例にすると、プレゼンの内容が分かり易く、聞き手が興味を持てるように創意、工夫されていれば、3点とする。

Q4 学習成果の可視化の取組み

【本取組みのまとめ】
本取り組みの主な効果をまとめた表1の結果から、本目的である「深い学び」と「問題解決能力」の育成に結びつけることができた。

表1 本取組みのまとめ

【提出報告書の中から「感想文」を抜粋】
学生から提出された報告書からの中から抜粋した「感想文」を紹介する。
・エンジンの構造を深く知ることができた。
・複合的な役割を持っているという事を実際に見てさわり、考察することは、将来ものを設計する技術者としてなくてはならない要素であり、これを今後の授業等にも活かしていきたいと感じた。
・グループのメンバーと力を合わせて、エンジンの分解と組立をして、最後は動かせてテストに成功して本当に面白かったです。
・自身の予習によりエンジンの運転までたどりつけた。
・本講義はとても有意義で、かつ楽しかった。また、限られた時間で考えをまとめ、全員の前で話すという経験が大事なものだと思う。全員の前での発表は是非来年度以降のWSに残して欲しい。
などの結果から、本取組みが「動機づけ」「深い学習」の成果に結びつき、狙い通りの効果が得られたのではないかと判断する。

Q5 PBLを発展させるための課題

2020年度に向けて大きく表2の3項目を主体に改善させることで、更なる授業のブラッシュアップを図る。

表2 PBLを発展させるための課題(2020年度のAction)

Q6 授業の概要と進め方

1回目の授業で教材のエンジンを分解し、2回目の授業で分解したエンジンを元通りに組立て、運転テストを行い、2回の授業で完結する(大まかに授業の流れと主な授業のポイントは図6を参照)。
【1回目の授業】
エンジンの分解作業を進めながら、分解手順書のマニュアルを作成し、部品の材質、機能を習得する。

【授業前学習】
2回目の発表課題は、エンジンの構造的な原理にかかわる内容が含まれているので、予備知識のない学生は発表できない。そこで、「反転授業」により授業前学習を行うことで、2回目の組立・運転の学習を通じて、より理解を深めることができる。
【2回目の授業】
1回目の授業で作成したマニュアルを基に元通りに組立て、授業前学習で習得した知識を基にエンジンの動作原理を学ぶ。
【成績評価】
成績は、グループ学習、報告書で評価を行う。

図6 大まかな授業の流れと授業の主なポイント


〇PBLを主体とした教育への取組みに対する支援(PBL教育支援プログラム学内公募)

東京電機大学教育改善推進室では、平成23年度から「学生が主体となって学ぶ」形式を取り入れた、いわゆる「PBL(Problem-Based Learning又はProject-Based Learning)」による教育の開発・運営を「PBL教育支援プログラム」として支援し推進しています。
PBL教育支援プログラムは、これからPBLを取り入れていこうと考えている教員やすでに実践しているPBLをさらに工夫しようと考えている科目を対象に支援を行い、その実践と成果を学内の関係者と共有し、学生の学びを主体とした教育の推進を図ることを目的としています。