平成29年度 PBL教育支援プログラム 成果報告書「環境と化学」

2018.04.25

開講学部 工学部/応用化学科
科目名 環境と化学
担当教員 保倉 明子・田中 里美

Q1 PBLを導入した意図・目的

本科目では、身近な環境問題を科学的に考え、環境にやさしく持続可能な社会の実現にむけた「ものづくり」の取り組みを概観する。このためPBLを導入することで、①学生が自ら調べる自学の姿勢を身につける。②グループ学習による共同作業を通してコミュニケーションスキルを身につける。③自ら発表することでプレゼンテーション能力を身につける。④課題を読み書きすることで表現能力を高めることを目的とする。平成26年度~平成28年度にPBLを実施した「環境科学」の後継科目に位置づけられる。

Q2 授業におけるPBLの実践方法

アクティブラーニングを実践するため、昨年同様、様々なワーク課題1~5を課した。

課題1:グループワークとプレゼンテーション
【グループ分けの方法】1グループ3名程度。ランダムにグループ分けをして、グループごとに発表テーマを初回に割り当てた。
【授業方法】第4回~第12回までの9回は、学生グループによる発表とした。1グループで15分の発表時間。発表前に事前グループワークを義務付け(最低3回)、ファシリテータをつけた。PBL活動記録(1回集まったら1枚記録)をつけ、発表後に提出した。内容は「今日の目的」「活動内容」「次回の予定」「ファシリテータのサイン」で構成されている。また、個別およびグループワークで学習した内容を、章のまとめレポート課題とした。
毎回の授業の際、学生が受身になりがちなので、事前課題(A4で1枚,3題程度)を課した。学生発表のあと、事前課題についてのグループディスカッションを実施した。その際、必ずひとりずつ発言する機会をつくるように、教員が1分ずつ時間を区切り、教室全体の進行を調整した。グループごとに議論したあと、教室全体で意見を共有した。

発表の様子

グループディスカッションの様子

課題2:科学関連図書
下記のうち3冊読み、レポート(A4用紙2枚ずつ)にまとめる。
タイトル 著者
ヤモリの指から不思議なテープ 松田 素子
沈黙の春 レイチェル・カーソン
不都合な真実 アル・ゴア
新・材料化学の最前線 首都大学東京 都市環境学部 分子応用化学研究会 編
創るセンス工作の思考 森 博嗣
自然に学ぶものづくり 赤池 学
生涯最高の失敗 田中 耕一
もうダマされないための「科学」講義 菊池 誠
科学者という仕事 酒井 邦嘉
技術は人なり。丹羽保次郎の技術論 東京電機大学
「はかる」と「わかる」 堀場製作所コーポレート・コミュニケーション室+工作舎
嫌われ元素は働き者 日本化学会 編
学生にもっとも読まれた本は、「ヤモリの指から不思議なテープ」で全体の71%が選択していた。

課題3:国立科学博物館の見学
本学と大学パートナーシップを結んでいる国立科学博物館へ行き「物質を探る」「環境にやさしい化学をめざして」「科学と技術の歩み」などに関する展示のうち1点を選択し、それに関する事項を調べて、レポート用紙2枚にまとめる。

グループディスカッションの様子

課題4:「社会における環境科学」グループディスカッション
外部講師による講演のあと、下記の8つのテーマに分かれて、ディスカッションを行った。1グループは10人程度。
1. 環境配慮型の商品(化粧品)開発をしよう!(資生堂)
2. 未来では食糧が足りなくなる?限りある食資源の有効活用法を考える(味の素)
3. 種々の媒体を置き換えるための新たなICTを構築しよう(TDK)
4. 個人の行動と環境問題について考えてみよう(埼玉県環境部)
5. 水処理技術を世界の水環境改善に役立てよう(メタウォーター)
6. 節水と快適性の両立を考えてみよう!(TOTO)
7. 未来の環境問題に必要となる「化学」を考えてみよう!(三井金属鉱山)
8. 革新的かつ環境に優しい発電方法を考えてみよう(東芝)
グループディスカッション当日にきちんと議論が始められるように、第13回にはグループごとの自己紹介の機会をもうけた。また、事前課題をやっているかどうかあらかじめ確認した。自分の意見・アイデアを付箋紙に書いて持ち寄り、大判模造紙に貼りながら意見交換できるようにした。

課題5:小論文
下記のテーマについて、400字以上800字以内で記述する小論文を課した。時間は、テーマ1と2合わせて60分間とした。実施の一週間前に小論文テーマを発表し,テーマ1については事前に記述してもよいとした。
テーマ1:グループディスカッションで取り組んだテーマについて、意見やアイデアを述べなさい。
テーマ2:本講義を学んできた中で、あなたが一番興味をもち挑戦したいと思ったグリーンケミストリーの課題や環境問題を一つ挙げ、その理由を記述しなさい。また、課題解決に向けて、今後どのような科学技術が必要とされるか、意見を述べなさい。

Q3 授業における成績評価方法

グループ評価点(発表、スライド)
スライドを工夫して作成しているか、課題についてよく調べているか、内容をよく理解しているか、わかりやすいプレゼンテーションか。

個人評価点(レポート等)  
①課題テーマ(例 大気汚染)、②科学関連図書、③国立科学博物館、④小論文

Q4 学習成果の可視化の取組み

       学習の効果

グループの学習成果については、全9回の発表を通じて可視化することができた。また、発表に至るまでのグループワークの活動について、グループごとに記録し、プレゼンテーション後に提出した。グループワークの協同作業を記録することで、どのように学習を進めているか、客観的にみることが可能となった。また、プレゼンテーション後には、発表を振り返っての感想を提出した。
第15回には、PBLに関する独自のアンケートを実施し、講義を履修する前と比べた学習の効果について回答を得た。アンケート結果からわかるように、受講前と比較し、この分野への興味・関心が高まっている。PBLの実践が専門教育の導入として成功しているといえる。

Q5 PBLを発展させるための課題

上記のアンケート結果からわかるように、環境問題に関する基礎知識や科学的な見方、興味や関心が高まった、という項目については、身についたと感じている学生が多い。また、昨年度と比較すると、全般的に高評価になった。ときに「環境や資源の問題に関してわかりやすく説明できる」という観点について身についたと感じた学生の割合が高くなっていた。今年度は、授業毎に短単時間ではあるがグループディスカッションを導入したため、自信をもてるようになったと考えられる。
今後、さらにPBLを発展させるための課題として、言語表現力を向上させる課題設定が望まれる。たとえばルーブリックを元にした、レポートの相互チェックなどが考えられる。

Q6 授業の概要と進め方

第1回 ガイダンス、班分け、自己紹介
第2回 グリーンケミストリーとは、発表スライドの作り方、発表の仕方【保倉】
第3回 高分子の化学【田中】
第4回・第5回 大気環境(大気の成分、大気汚染物質、酸性雨、汚染物質の対策、排出粒子の対策)【学生】
第6回・第7回 水環境(資源としての水、上水道、水質汚濁、水質環境基準)【学生】
第8回・第9回 地球温暖化(温室効果と温室効果ガス、温暖化への対策)【学生】
第10回 オゾン層(オゾン層破壊の化学反応)「【学生】
第11回 エネルギー(エネルギー変換)【学生】
第12回 廃棄物のリサイクル(循環型社会とリサイクル関連法)【学生】
第13回 グループディスカッション準備(課題の実施状況確認、自己紹介、グループ内の役割分担を決める)
第14回 社会における環境科学(ゲストスピーカーの講演とグループディスカッション)
第15回 小論文、アンケート


〇PBLを主体とした教育への取組みに対する支援(PBL教育支援プログラム学内公募)

東京電機大学教育改善推進室では、平成23年度から「学生が主体となって学ぶ」形式を取り入れた、いわゆる「PBL(Problem-Based Learning又はProject-Based Learning)」による教育の開発・運営を「PBL教育支援プログラム」として支援し推進しています。
PBL教育支援プログラムは、これからPBLを取り入れていこうと考えている教員やすでに実践しているPBLをさらに工夫しようと考えている科目を対象に支援を行い、その実践と成果を学内の関係者と共有し、学生の学びを主体とした教育の推進を図ることを目的としています。