FD/SDセミナーレポート「サマープログラム探究学習ワークショップ(実施編)」

2018.03.27

前回に続きサマープログラム探究学習ワークショップレポートをお送りします。
ここからはグループワークを行いました。共通テーマ「どのようにすれば質の高い探究者を育成することができるのか」を話し合い、参加者間で共有しました。

課題を見つける

佐藤先生からの問い「課題を誰が見つけるのか」「どのような課題を発見するのか」をグループで話し合い、それぞれのメリット・デメリットを考えました。

1)課題を誰が見つけるのか
  メリット デメリット
教員決定型

教員側がある程度コントロールできる。物理的な問題や時間的なことを統制できる。

教員側から提示されるので学生のモチベーションが上がりにくい。
学生決定型 学生のモチベーションが高まりやすい。 課題にすらならないレベルで終わる可能性がある。計画的や物理的に合うかがわからない。失敗する可能性が高い。
教員提示・学生選択型

教員側がうまく誘導できれば統制しやすい。選択肢があると学生も参加しやすく、自分の選択であるためモチベーションも上がりやすい。

結局は教員提示であるため、誘導されていることに気づくと学生はモチベーションが高まらない。教員側は選ばれない可能性の選択肢も用意する必要がある。

2)どのような課題を発見するのか
  メリット デメリット
興味・関心基盤型

話題が豊富にあるので興味が集まりやすい。学生が能動的に見つけやすい。

表面的なことに限定されてしまう。深掘りされない可能性がある。
日常生活基盤型

生活に密着したテーマなので取り組みやすい。

日常生活から研究に結びつく課題が生まれるかわからない。
フィールド基盤型

自分の目で確認できるため、きっかけとしては有効。

フィールドが限定されていると、課題として妥当であるかどうか。

学術研究基盤型 将来の卒業研究に結びつくので到達としては素晴らしい。 学生の興味を引くことが難しい。

問いを作る

「良い問い」を作ることができない、作ろうとしない。このことは学生のみならず私たち教員にも言えることです。この「良い問い」を作る訓練をしなければいけないのではないかと考えています。
では「良い問い」とはいったいどういったものでしょうか。

(参加者からは以下の意見が出されました)

<良い問い>
・発展性がある
・どうしてそうなるのか理由を知りたくなる問い
・活発に意見がでるような問い
・次のアクションにつながるような問い
・問い自体に発見がある
<悪い問い>
・調べればすぐに答えがでるような問い
・深掘りができない
・コピー&ペーストができてしまう問い

「問い」は規模と深度を設定することにより分類することができます。
「規模」で例えるのであれば、今日のお昼はカレーにするかラーメンにするかといった非常に狭い問いと、一方で人類は21世紀をいかに生きるべきか?といった非常に広い問いもあります。どちらが良い悪いではなく、探究学習として設定したときに狭い問いはすぐに終わってしまう可能性があります。しかし広すぎる問いは15回では終わらないかも知れない。
「深度」について考えてみましょう。浅い問いは深くすることができます。この浅い問いを深くすることを求められているのは教員側ではないかと思います。例えば学生が「昆虫とは何か?」といった問いを立てたのであれば、教員がその問いを受けて「昆虫が絶滅したら地球上には何が起こるであろうか」といった問いの変換をしてあげる。この少しのアレンジを加えるだけで思考と創造が必要となる「問い」ができます。
問いに対して色々な展開ができること。学生自身が問いの「規模」や「深度」を理解しておくこと。それと同時に教員側もその問いをカテゴライズできること。このことが非常に重要になります。

学生に問いを立てる演習を課すと、「なぜ」という問いの型が多くだされます。学生は「なぜ」を付ければ問いであると考えています。そこで出てきた「問い」に「どのように」を足すことを促します。頭を動かす前に機械的に手を動かして「動詞×疑問詞」作ってもらいます。作った「問い」を学生間で共有し、その「問い」がオープンクエスチョンであるのかクローズドクエスチョンであるのか議論します。

目標を作る

シラバスにおいて到達目標を立てると思いますが、探究学習においても目標を立てるべきでしょうか。立てないほうが良いという意見もあると思いますがどうでしょうか。

(参加者からは以下の意見が出されました)

・学生が設定した「問い」には目標設定が立てにくい
・パフォーマンスを評価する
・「問い」に対する答えに関しての評価は行わない
・コンピテンシーを高める目標設定

到達目標にするまでもないルールやアドバイスは参考資料として学生に提供することも可能です。教員が目標設定をせず学生が目標設定を行い、そのうちの数パーセントを盛り込むこともできます。共通の知識の部分は必要ですが、探究学習は思考・判断・表現・意欲・関心・態度。このような部分を伸ばすことができるのではないでしょうか。


ここからは探究学習の実施段階における悩みを参加者間で共有し、佐藤先生からは解決の糸口になるお話をレクチャーして頂きました。

探究学習の課題

Q:グループワークをうまく運営するにはどうすればよいか。消極的な学生の指導方法。

社会心理学では人を集めただけではグループにはならないと言われています。グループにおいて人数を決めることは非常に重要です。人数の多いグループであればあるほどフリーライダーが生まれ、グループにおける関わりの時間が減っていきます。5人では一人がお誕生日席になってしまい、グループに入れない者が生まれる可能性もあります。各個人が責任感を持って活動をできるグループ人数は4人です。

人数以外にも考えなければならいことがあります。社会心理学に出てくる文章ですが「グループが複雑で非日常的な問題の解決にあたる場合、さまざまな技能や知識、構想をもった人々で構成されたグループのほうが効果的な機能を発揮する。(キース2009年)」
人数と多様性でみると、無作為集団と補完型集団では補完型集団のほうが良いパフォーマンス発揮します。単純に名簿順でグループ分けしてしまうと、生産性が高まらない可能性があります。

これは私が実践している「最強チームを作るためのプロフィール調査」です。名前・性別・学年・研究室等を記入してもらい、なるべく多様性の生まれるグループになるようにしています。他にもグループ内で各自が行いたい役割は何であるのか希望調査をします。希望調査をするとリーダーになりたいと申し出る学生はやはり少ないので、リーダーになった者には4ポイントの管理職手当をつけると急に人気職になります。

私はリーダー役に向いてないという学生もいますが、実社会においては部長になることも社長になることもあるかも知れません。社長になれば社長らしく振舞う演技をする。役割というのはそのような演技をしていけば身につくものであると伝えます。リーダーもはじめは向いていないと思うかも知れないが、周囲からリーダーと呼ばれているうちに自然とリーダーらしくなります。「今は授業であるから失敗しても全くかまわない。経験を積むことが大切である」とアドバイスをします。
しかし希望調査をして振り分けてもグループが上手くいかないことがあります。役割だけを決めても何をしていいのかわからない状況になっているときには、各自の役割に応じた台本のようなものを配ることもあります。そこまでしてもなお、グループが上手くいかないときがあります。そのような場合には途中でグループを変えることもありますし、上手くいかないグループにはこれも勉強であると経験を積ませることだけを重視する場合もあります。

Q:教員の介入の度合いはどの程度にすればよいか。ファシリテーターとしての役割。

教員の役割ですが、あまり介入はしない方が良いと思います。私はグループワークには殆ど介入しません。教室からいなくなることはありませんが、テーブルの横につくこともあまりしません。
以前、医学部でPBL授業が行われていましたが、昨今は低調で取りやめる大学が増えています。この失敗の原因は教員の介入にあります。先生が介入し過ぎて、学生に対してこれが違う、あれが違うと意見を言い過ぎてしまった。これは探究学習における失敗例です。
先生方でもご経験があるかも知れませんが、教員がしばらく不在でいると学生の理解進度が急速に上がって驚いたことはありませんか。これは探究学習における究極の指導方法です。しかし先生単位ではうまくいっている探究学習でも、学年全体、大学全体で行おうとすると介入し過ぎる先生が現れます。ですからファシリテーター研修はしっかり行った方が良いです。
グループワークは始めからうまくいくものではありません。組織にも人間のようにライフサイクルがあり、形成期から混乱期を経て規範期・成果期に入ります。ですから教員は形成期~混乱期にかけて介入の度合いをやや強め、そこから規範期に入れば安定してきますので、学生を信頼し任せておいても大丈夫です。

Q:学生の自己評価をどの程度信用していいのか。

グループワークでは振り返りの時間も非常に重要です。自己評価シートを学生に書かせると、グループ内で結託し全員100点と評価してくるグループが現れたり、真面目に評価して80点とつけてくるグループもあります。日本の学生は真面目な子ほど自己評価を低くつける傾向にあります。この自己評価を科目の成績評価基準に入れる割合ですが30%では多すぎます。自己評価に関しては全体評価の10%以下、場合によっては5%くらいで良いと思います。しかしこの自己評価を授業で取り入れると学生は張り切ります。この自己評価を毎回出しフィードバックすることで、学生にも評価能力がついていきます。後はフィッシュボールという手法もあります。これはグループ活動を金魚鉢のように周囲から評価者が観ることですが、これを教員が行うと学生から不満が上がります。これを学生同士で行うと周囲の評価を気にするためグループワーク力も高まり、評価する側の評価力を高めることもできます。

Q:探究学習の動機付け

教員が望んでいることは学習内容の修得と同時に内発的な学びの姿勢を見せてもらうことです。探究学習そのものが楽しく、問いを立てて追及していくことがモチベーションになることを望んでいます。しかし実際は東大生も含めて、「充実志向」を求めている学生は殆どいない。では他にどんな動機付けがあるかというと、「関係志向」と言われるもので、他者につられてグループで活動するから探究学習が楽しいという者。他には「自尊志向」。プライドや競争心、他グループに対抗することで急に頑張り始めることです。他には「報酬思考」があります。これをすれば成績に優がつくであるとか、周囲に認められるであるとかそういったことをモチベーションにする学生もいます。教員が期待するほど内発的にモチベーションを上げる学生はあまりいません。ですから教員側が授業を進める上であらゆる手段を用いて、学生のモチベーションを上げる工夫をしなければなりません。

アクティブラーニングを実施されている先生で、全員で100点を取ることを目標にしている先生もいます。他者に教えることを積極的に推奨されている先生もいます。他にもポイント制にしていて、何をすれば何ポイントを学生に与えている先生もいます。このポイント制ですが、成績評価に反映させなくても良いと思います。何ポイント溜まったら先生からシールを貰えるなどその程度で良いと思います。学生は先生から認められたと思えることがモチベーションの向上につながります。
教員から「君は優秀だね」と声をかけられることは、学生にとっては非常に嬉しいことです。教員が褒めて認めてあげることで、やる気があがり頑張ろうと思ってくれる学生がいます。グループ単位で褒めることも大切ですが、個人個人を認め、それをきちんと言葉でかえす。教員がそういったことを面倒がらずに続けると、探究学習のモチベーションの持続に繋がります。