FD/SDセミナーレポート「中・高生の課題探求学習実践事例—東京電機大学中学校・高等学校における学年横断型課題探求学習TDU4D-Labの取組み」平川吉治 先生

2017.03.28

教育改善推進室開催、平成28年度FDSDセミナーは『東京電機大学中学校・高等学校 教頭 平川吉治先生』をお招きして<中高生の「課題探求学習」実践事例 TDU4D-Labの取り組み>と題して、東京電機大学中学校・高等学校4D-Labの活動内容をお伺いしました。平成27年度に開催されたFDセミナーにおいては、取り組み開始前の段階で4D-Labの内容や意義をお伺いしました。平成28年度よりスタートした学年横断型「課題探求学習」はどのような形に実を結んだのでしょうか。
(2016年10月4日に開催した内容を編集したものです)

東京電機大学中学校・高等学校 教頭 平川 吉治 先生東京電機大学中学校・高等学校
教頭 平川 吉治 先生

<東京電機大学中学校・高等学校 TDU 4D-Lab とは>

高校卒業から大学入学、そして社会人になる将来に向け、世の中に出たときに社会で必要とされる力を学校で身につけて欲しい。このプログラムを通して、生徒の成長を養っていきたいと考えている総合学習の科目です。

・「総合的な学習の時間」における学年の枠を取り払い中高生が一緒に活動する課題探求学習。
・大学における「研究室(Laboratory)」をイメージして、これを中高生向けにデザインした活動
・三次元を意味する3Dに、「時間」の概念を加えた4D(四次元)を冠することで「社会における普遍性」の意味を込めている。

TDU 4D-Lab のテーマ

まずはLabに相応しいテーマを教員が決めました。テーマを教員から募集し似たようなものを整理した後、カテゴリー分けを行った結果、38テーマに絞りました。テーマごとに担当教員を決め、その後生徒には希望するカテゴリーで募集をしました。本校は理系色がとても強い学校なので、文系のテーマはあまり生徒が集まりません。テーマごとに募集するとなかなか集まらないグループが出てくるのではないかと危惧したのです。その後、教員側である程度グループの振り分けを行いました。1つのLabで一学年5人位の募集にし、四学年(中学2年生から高校2年生まで)を合わせて20人位になるようにグループ分けを行いました。

実際の活動の様子

テーマ「ミリオネアになろう」
文系寄りのテーマにしては人気の高かったLabの一つです。大金持ちというキーワードが中高生の心をくすぐったのか、具体的なテーマ名になるとわかりやすくなるためか、希望者の多かったLabです。実際の活動は大金持ちになるための研究ではなく、大金持ちになるために世の中の経済やお金の流れを考える内容でした。始めは教員が前に出て講義形式で行っていましたが、回が進むにつれて生徒たちが自ら黒板の前に立つようになり、付箋を貼ったりしながら、中学生と高校生が学年を超えて議論できるようになっていきました。

テーマ「ビオトープを作ろう」
理系寄りのテーマの中でこれが一番人気でした。校内にビオトープを作るためにはどうしたら良いのかを考えたLabです。生徒たちが議論し実際にビオトープを作るところまで行いました。校内に池のあった場所があり、そこにビオトープを作ろうと計画しました。夏休みが始まる前の活動で池の場所を見つけ、夏休み中に水を張るとどうなるか実験をしました。しかし夏休み後に登校してみると水が全部抜けていたのです。期せずして、このLabは失敗から始まりましたが、担当教員側には、「生徒たちの活動に先回りして、手を打たないようにして下さい」と伝えています。逆に「失敗するとわかっていても、どんどんやらせて下さい」と伝えていました。失敗を通して、生徒たちはどうしてこうなったのか、どうすれば上手くいくのかを考えることができます。このことは我々が意図しているところです。

テーマ「目指せ高校生社長~イノベーターに君もなろう~」
このLabは高校生限定のものです。社長という具体的な言葉が良かったのか、生徒たちに人気がありました。起業するにはどうしたら良いのか、世の中の仕組みを考えたLabです。活動の中で実際に起業された方を、外部講師としてお呼びして話を伺いました。高校生は自分たちで考えたアイデアを嬉々として発表するのですが、講師の方からはだいぶダメ出しを受けたようです。起業のことなどは、教員からはなかなかアドバイスができない内容です。起業家の方からの意見は貴重なものとなって、生徒たちには大変勉強になりました。

テーマ「日本とアメリカを知ろう」
こちらは文系寄りのテーマとなります。高校生が夏休み中にアメリカへホームステイに行ったときの様子をまとめました。ホームステイ中に見たこと感じたことをベースに、アメリカと日本の生活習慣の違いや、文化の違いを議論し合いました。文化祭での発表は、現地での様子を英語で掛け合いをしたりと、随分練習した様子が見られました。礼儀正しく熱心で、本校の生徒たちは素晴らしいなと大変感心しました。

文化祭での発表の様子

2016年9月に武蔵野祭を行いまして、初めて公の場でLab活動を発表することとなりました。全38のLab活動のポスターセッションを行い、報告プレゼンテーションに関しては、時間の関係上7つのLabを選出しました。自分たちが活動している間は他のLabの活動を見ることはできないので、生徒たちには大いに刺激になったようです。ポスターセッションも非常に立派なものができあがりました。活動中に作成したものを並べたり、イラストを描いたりと生徒たちの表現方法はなかなかセンスがありました。2日間の文化祭の間に多くの方にご来校頂き、アンケートを書いてもらったのですが概ね好評でした。

活動を通して見えてきた生徒たちの反応

一番の問題は生徒間のモチベーションの差が大きかったことです。Labによっては全く人気のないテーマもあり、第二、第三希望でもないLabに生徒を割り当てた所もありました。このことは教員側からも相談を受け、「どうすれば希望していなかったLabに入った生徒を動かすことができるのか」と。しかし、そういった相談がある一方で、Labの中で上級生と下級生の役割が自然とできあがっていき、Labが上手くまわって行くこともありました。他にも、テーマの中で自分たちがプロジェクトを設定し自ら解決策を考えるといったことが、生徒たちは普段の授業では中々体験できることではありませんので、そのことがとても新鮮であり楽しかったようです。想定外だったことが1つあります。通常、学校でグループ活動をさせると上手く馴染めない生徒や、人間関係で一度つまずいて修復できなくなってしまう生徒が中高生にはでてきます。ところがこの4月から始まったTDU-4DLabが新しい活動の場となり、今までクラスや部活以外では人間関係を築いてこなかった生徒が、新しい人間関係を築ける場所となったのです。新しい居場所を見つけたことで、もう一度学校生活をリセットすることができた。月1度の活動なので、その距離感が居心地が良いという生徒もいました。このことは教員側には新たな発見でした。

今後のTDU4D-Labの課題

①教員のファシリテーターとしての指導力の向上
本当にファシリテーターになりきれるのか。このことは教員側から多く聞かれた意見です。どこまで介入して良いのかわからなくなる。生徒たちを動かすスキルを教員側が身につけなくてはなりません。

②Labの活動の到達度を測定するための評価法の必要性
Labの活動はいったいどうやって評価していくのか。この活動は試験をやって点数化できるものではありません。やったことがどれだけ生徒達の成長につながったのか測る尺度が難しい。今やっていることをどう評価するのかが課題です。

③そもそもLabの成果をどこに求めればいいのか
我々は生徒に生きる力を身につけて欲しいと思って始めたLabですが、外部からは研究の成果を見せて欲しいと言われることもあります。その辺りのバランスをどうするのかを考えなくてはいけません。

始まって半年のTDU4D-Labですが、課題も見えてまいりました。我々でもワークショップを開き、教員側から良かったところや悪かったところを情報共有する場を設けています。外からの意見も聞きながら、生徒たちの心の成長に結びつくような総合学習がより活発になるよう努力をしている最中です。

以上が平川先生のTDU4D-Labのお話でした。文化祭での中高生の発表を見ましたが、どのLabも表示が工夫されており、生徒の活き活きとした体験が伝わるとても素晴らしいものでした。研究成果ばかりに注目が集まりがちですが、「生徒の心の成長」と、目に見えない部分に力を注ぐ電大中高の取り組みに、大学側からも力添えができるのではないかと感じました。