FD/SDセミナーレポート「活気ある学び合いの場づくり(授業運営)-学生が自発的に学ぶ環境を創るファシリテーション-」中野 民夫 先生 / 冨岡 武 先生

2016.12.16

教育改善推進室開催の第5回FD/SDセミナーは『東京工業大学 教授 中野民夫先生』と『Will&Skillsファシリテーター 冨岡武先生』をお招きして<活気ある学び合いの場づくり(授業運営)—学生が自発的に学ぶ環境を創るファシリテーションー>と題して学生が進んで学ぼうとする「場づくり」に必要なファシリテーションスキルをワークショップ形式にてご紹介頂きました。参加者自ら体験した「場づくり」とはどういったものでしょうか。
(2016年7月16日に開催した内容を編集したものです)

中野 民夫 先生中野 民夫 先生

<中野 民夫 先生 ご紹介>

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院 教授。 広告会社に勤務の傍ら、ワークショップ企画運営を長年実践。市民団体や企業、学校など多様な分野で参加型授業の企画・推進・運営を数多く手掛けている。

冨岡 武 先生冨岡 武 先生

<冨岡 武 先生 ご紹介>

フリーランスファシリテーター。自動車関連メーカー~会計系コンサルティング会社を経て独立。ビジネス・ブレークスルー大学講師(問題解決基礎)。企業への参加型研修の提案、ワークショップやプロジェクトを多数実施。

本日のファシリテーションのゴール

ファシリテーションは私が一方的に話すような講義ではなく、ご自身が体験して実践された方が習得できるものだと考えています。ファシリテーションも幅が広いのですが、本日のテーマは「自発的な学び合いの場づくり」ですので、自ら参加してワークショップを経験することで、ファシリテーションはこういうものかと理解して頂けたらと思います。そして基本を学んでから、ご自身の現場でやってみたいファシリテーションが1つでも見つかればと考えています。ワークショップの最大の意義は、他人事から自分事にする当事者意識が非常に高まることです。人から教えられても、その時はなるほどと思うのですが、すぐに忘れてしまい身になりにくい。しかし、これを自分事ととらえたときに「自分で考え創った」という思いが生まれ、自分がそのアイデアやプロジェクトのかけがえのない一部になったというコミットメントが自然に出てきます。

※注釈
【ワークショップ】
一緒に創る場のこと。講義などの一方的な知識伝達のスタイルではなく、受講者自ら参加・対面して共同で何かを学びあったり、創りだしたりする学びと創造のスタイル。
【ファシリテーション】
ファシリテート(英語)は促進する/容易にするという意味。相互作用や創造性を導く場のこと。何かを学ぶ時に、その過程を参加者主体で行う技法。ファシリテーターはその場の進行役。

ワークショップ参加の心得

1.積極的に話に参加を。
ワークショップは各自が主役です。どんどん積極的に話合いに参加して下さい。自身の関わり方が場を作って行きます。

2.よく聴こう!他者を。自分も。
お互いに相手の話を良く聞くようにして下さい。自身の今までの経験に照らして、相手の話を結論づけて聞く方がいますが、結論づける前に相手の話を最後まできちんと聞いて下さい。自分自身が気づいていなかったことが見えるかも知れません。

3.身心を開いて楽しもう。
本日は黙って座っているだけでなく、動いたり歌ったりと五感を刺激して活性化を図ろうと思います。身体も心も開いて積極的に参加して下さい。

4.でも無理をしないで。
ワークショップは集団行動的な所もありますので、そこまで話す必要ないなと感じたら、他の方に迷惑がかからない程度にサボって頂いて結構です。決して無理をしないで頂きたいと思っています。

20160716FD01

ファシリテーターから以上の説明を受けワークショップがスタートしました。

<チェックイン作業>
チェックインとはその場にいる人間をグループ分けする時に用います。本日はA4の紙に自己紹介を書込みました。ファシリテーターからのお題は「①どこの誰②忙しさ自慢③好きなこと④参加のきっかけ」です。書けた人から教室の後ろで一つの輪になります。輪になる時もただ漠然と輪になるのではなく、ファシリテーターからの問い「昨夜の就寝時間」を各自で言い合いながら、早い方から遅い方まで順に並びました。そこで天の采配(講師の声かけ、偶然の出会い)によりグループを作り各自で椅子を移動させ、グループ内で自己紹介をしました。

<マインドフルネス>
マインドフルネスとは、感情に溺れることなく今起こっている事実をただ知るという意味です。このことを知る事でストレスにも強くなり、感情からも自由になれます。最近では、ビジネスの世界でも瞑想を取り入れるなどの動きがあり注目が高まっています。ワークショップでは参加者をリラックスやリセットさせる目的で、軽い体操を行ったり瞑想を行ったりします。本日は、軽い体操を行った後、中野先生自作の歌を皆で歌いリラックスした「場」を作りました。

<相互インタビューと他己紹介>
グループ内で二人組に分かれ相互インタビューを行いました。

本日のファシリテーターからの題目は
1)教育に関してこれまでどんな仕事や活動をしてきましたか?
2)教育に関わってきて「やっていて良かった」と思えた瞬間はいつどんな時ですか?
3)自分なりにどんな工夫をしていますか?
4)それは、どれくらいうまくいっていますか?

20160716FD02

インタービュアーの心得の説明がありました。 自分が喋りすぎないようすること。いかに相手から話しを聞き出すかがポイント。インタビューも対面で行うよりは隣同士の方が心を許しやすいが、隣に座るのが難しい場合は、相手に対して90度に座ると打ち解けやすくなるとのこと。以上に注意しながら相互インタビューをスタートさせました。

お互いにインタビューを終えた段階で、相手から聞いた話を一人称で紙に書きます。書き終えたらグループ内で順に他己紹介を行い、感想をシェアしました。

ここまでが前半の部分です。
中盤はワールドカフェです。

ワールドカフェとは

本日のテーマ「自発的な学び合いの場」について話し合って行こうと思います。「ワールドカフェ」はその名の通りくつろいだ雰囲気で話し合う場のことで、ファシリテーターからの問いについて全員参加で対話をします。ただのおしゃべりとはそこが違います。組合せを変えながら、小グループでの会話を積み重ね、全体の探求につなげていきます。4人組くらいで行いますが、今座っているグループを一度バラし、この後は今日まだ話していない方と話せるようにしたいと思います。通常は3ラウンド行います。第一ラウンドは簡潔な自己紹介後に対話をします。時間がきたら、テーブルにホスト1名残して席替えをし、そして第二ラウンド。また簡単な自己紹介後に前の対話の共有と新たな対話。そして第3ラウンドもホスト1名を残して席替えをし、前のことを繰り返します。メモは誰か一人がするのではなく、各自が出てきた言葉を目の前の模造紙にどんどん書いて下さい。そして最後にハーベスト(収穫)となり、全体で発見・気づきを分かち合います。

対話の心得

1.率直に語ろう。
思いついたら気楽に話しましょう。率直に話はしますが意見に固執はしないように。ここは自分の意見を何とか押し通す場ではありません。

2.他者に関心を持ち、傾聴しよう。
自分のメガネは置いて共感的に理解をしましょう。同じ言葉を使っていても違う意味合いで話しているかも知れません。相手がどうしてそう思うようになったのか背景を見るようにしましょう。

3.新たな発見を開いていこう。
対話は新しいものを一緒に創っていこうという場です。一緒に創造をしましょう。ここは議論の場ではありません。どちらが正しいとか正しくないとかは関係ないのです。
本日のワールドカフェのお題です。

第一ラウンド
「自分が何かに強制されることなく、自発的に何かに取り組んだ経験を思い出して下さい」 「それはいつどんな経験でしたか」 「何が自発的にしたのだろうか」
第二ラウンド
「人(学生)が自発的に何かに取り組むために、大切なことってなんだろう。」
第三ラウンド
「これまでに確認したことを、自分の授業(や仕事)に取り入れるとしたら何ができるだろう」

20160716FD03

ファシリテーターからの説明を受け、ワールドカフェをスタートしました。1ラウンド10分ごとに席替えをしながら、ファシリテーターの問いに対して皆で意見交換をしていきます。初対面同士でも会話が弾み、場の熱気が高まっていく様子がわかりました。
第三ラウンドまで終えたら、気づいたことを共有する時間を持ちます。ワールドカフェではそのことをハーベスト(収穫)と呼びます。ハーベストには手をあげて発表したり、模造紙に各自の気づいたことを付箋で貼ったりと色々な共有の仕方がありますが、本日は各自が気づいたことを紙に書きハーベストとしました。

ここまでがワールドカフェです。
後半は講義です。

ファシリテーションの基礎スキル

1. 場づくり=空間のデザイン+関係性のデザイン
・空間(物理的)デザイン
机や椅子の配列を変えるだけでその場の雰囲気が大きく変わります。我々は用意されている部屋に自分を合わせてしまうことに慣れ過ぎています。100人教室に20人ほどの受講生しかいなくてもそのまま使っている。もっとゼロベースな気持ちで臨みましょう。常に、その時その瞬間の場の雰囲気に合わせて柔軟にレイアウトを変更させていく。椅子や机を移動させることは、参加者全員で行えばそんなに大変なことではありません。
・関係性(心理的)デザイン
始めは知らない人同士は緊張していて当然なので、オリエンテーションをしっかりして今日はどんな形で何をやろうとしているのかを共有します。一見遠回りのように感じるかも知れませんが、後にその場にいる者同士の関係性に大きく影響してきます。さらに「時間」の扱い方も非常に重要です。時間は常に限りがあるので、ファシリテーターはゆったりしながらもタイムキープはしっかりと行ってください。

2.グループサイズ
グループサイズも重要です。日本人の場合、他者がどうでるかをとても気にしてしまい、発言を控えるようになってしまうので、小さなグループに分ける方が発言率を高めるためには有効です。また、大人数になると、全員の意見を聞くには時間もかかります。ファシリテーターが、始めにその場にいる人数をさっと把握しグループ分けをします。お題を投げかけ、円になってもらったり、一列に並んでもらったりと偶然の出会いを演出します。このグループ人数に正解(決まり)はないので、その場その場でグループサイズを決めて頂いて、このグループサイズならこういったことが生まれると考えながら行って頂ければと思います。

3.問い(お題)
この問いというものはファシリテーターにとって責任が大きいものです。人は問えば考え始め、提案すれば動き始める。ファシリテーターは上から教えるわけではありませんが、問いを預かる人間なので責任があります。基本的な考え方は、ここにいる皆に共通の関心事は何かを考えることが重要です。人は頭ごなしに批判されると話をしたくなくなってしまうので、始めは具体的であり身近で裁かれない問いから始めましょう。自身の体験や最近うれしかったこととか。こうするべきという「べき論」は関係性が上がってから話し合いをしましょう。

ファシリテーションのこころ

1.信じて
言葉で伝えてしまうのは簡単ですが、相手(学生)が自ら気づいて発見できる力を信じてあげる。言葉だけではなくて態度で本当に信じてあげましょう。学生には学ぶ力があります。

2.任せて
そうしたら学生に任せる。過程(プロセス)を手伝ってあげるのはいいのですが、中身(コンテンツ)は任せてみる。ワールドカフェでもそうですが、お題(問い)はこちらで用意しますが、中身は皆さんに任せる。そこから気づき発見が生まれてきます。

3.待つ
最後は待つ。その場で花開いてくれると講師のやりがいも上がりますが、今蒔いた種がいつ芽を出すのかは人によって違います。企業にいると、結果が全てのように言われてしまい待つことは難しいのですが、教育に関わる事は「待つ気持ち」を心のどこかで強く持っておかないと続けられません。

参加型授業は学生にとって有効な効果が表れます。 まず「楽しい!」学びが楽しくて良いのだと言う発見があります。そして「世界が広がる!」異文化のものを受け入れることができるようになり、自身の枠が広がります。「コミュニケーション力が身に付く!」知らない人と話をすることで、自分とは違う考え方もあることを理解できる。「自ら何かやりたくなる!」自分が積極的に関わることで、主体性が育まれます。

今までの教育は先生から学生への一方通行で終わることが多かった。学生も学校に来て誰とも喋らないで帰ることも多い。しかし今起こっている変化は、横やマルチの双方向へ変わってきています。出会いの場が活気づき、学生同士のつながりをファシリテーターがうまく支えていく。このファシリテーター型の先生が増えることを目指しております。


以上が中野先生と冨岡先生のワークショップでした。ファシリテーターの問いや椅子の配置、グループサイズ、タイムキープ等全てが「場」の雰囲気作りに作用しており、4時間以上のワークショップが終始活気あるものとなりました。参加者自ら「場づくり」を体験したことで、ファシリテーターの役割の重要性がわかり、尚且つ学生目線の「場」も実感できるものとなりました。