FD/SDセミナーレポート「学生を夢中にさせる授業デザイン」東京工科大学 岸本好弘先生

2016.11.09

教育改善推進室開催の平成28年度FD/SDセミナーは『東京工科大学 特任准教授 岸本好弘先生』をお招きして<学生を夢中にさせる授業デザイン>と題してゲーム要素を取り入れた授業デザイン(授業設計)のご紹介を頂きました。岸本先生は企業で長年ゲーム開発に携わってこられた方です。ゲームの要素を取り入れた「ゲーミフィケーション×教育」とはどういったものでしょうか。
(2016年5月17日に開催した内容を編集したものです)

20160517FD講師

東京工科大学  岸本 好弘 先生
 (ニックネーム:きっしー先生)

ゲーミフィケーションとは

先生方の授業で退屈そうな学生達をご覧になったことありますか。おしゃべりしていたり、寝ていたり、後ろの方は内職していたりと。出席を取られるから出ているだけで、出席を取られないのならば授業にも出てこない。これらの学生は自ら進んで学んでいないので受動的です。ではこれらの受動的な学生を能動的に参加させるには、どのように授業を変えていけばいいのか。そこで私が考えたのは、楽しい仕掛けでこちらを向かせようという方法です。この仕掛けをすることによって、受動的から能動的に学生が変わるようになりました。この仕掛けこそが、私が研究として取り組んでいる「ゲームのチカラを教育・社会に役立てる」というものです。長年ゲーム開発に関わってきましたので、ゲームの要素を授業に取り入れようと考えたわけです。ゲームの要素と言っても、デジタルに精通した方しか使えないようなものではありません。もっと身近な、子供の頃に皆さんが体験してこられたような楽しい遊びのことだと考えて下さい。ゲーミフィケーションとはゲームや遊び要素を取り入れて、対象者をやる気にさせることです。

惹きつけるゲームデザインのノウハウ6つ

皆さんはゲームをしたことがありますか?ゲームは何故、面白いのでしょうか。勘違いしないで頂きたいのですが、全てのゲームが面白いわけではありません。しかし、面白いゲームには必ず「惹きつけるゲームデザイン6つ」が仕掛けとして盛り込まれています。それはどんな仕掛けでしょうか。

1.遊びたいときに遊べる
ゲームは自分の好きなときにできてやめたい時にやめられる。スマホゲームは特にそうですね。電車に乗っていて降りる駅になったらパッとやめる。これをなんと呼ぶかと言うと能動的参加です。ゲームは好きな時にできるから面白いのです。強制的にゲームをさせられても全く面白くありません。

2.称賛演出
ゲームでは、ステージをクリアすると派手に花火が上がったりします。ゲームから「よくやったね!すごいね!」と褒められるわけです。これを何と呼ぶかというと、称賛演出と言います。しかもかなり大げさな称賛です。皆さんの人生において派手に称賛されたことはありますか?殆どの方が無いと思いますが学生も同様です。では、この称賛を先生方が学生に対して行ってあげるとどうなるでしょうか。

3.即時フィードバック
ゲームはコントローラーを右に動かすとキャラクターが移動し、ボタンを押すとジャンプしたりします。ボタンを押して3時間後に反応があっても全く面白くありませんね。当たり前のことですが、自分が動かした通りにすぐに動くから面白いのです。これを何と呼ぶかと言いますと即時フィードバックです。こちらがアクションを起こすとすぐに返事が返ってきます。

4.自己表現
ゲームの中では、自分の好きなように中身を変えられます。キャラクターもゲームの中では自在です。ゲーム上では、「このキャラクターを仲間を入れたい、イヤ入れたくない」、「このキャラクターにはこの装備を身につけさせる」、「この魔法を覚えて使う」など、自分の好きなように自由に自己表現できます。

5.成長の可視化
あるゲームの中ではモンスターを何匹か倒すとレベルアップします。弱いモンスターをどんどん倒していると「あなたはレベルが2に上がった!」「攻撃力が3になった!」とレベルアップが目で見てすぐわかるようになります。今まで倒せなかったモンスターを、レベルが上がることで倒せるようになります。頑張ったことがすぐ目に見える。これを成長の可視化と呼びます。

6.達成可能な目標設定
ゲームの最初の敵は弱く設定されています。はじめから強い敵は出てきません。はじめは目標が低く設定されています。ゲームの世界では当たり前のことです。しかし人生でははじめから倒せない強い敵が出てくることがあります。人生はバランスの悪いゲームです。人生ではそうなんだから、授業では先生がデザインしてあげればいいんです。
以上が惹きつけるゲームデザインのノウハウ6つです。私もゲーム開発するときに色んなところでこのノウハウ6つを使ってきました。この6つを現実世界の授業でも使えばいいんです。今の若い方はほぼ皆ゲーム世代。ゲームに慣れ親しんだ世代ですから有効です。この6つを学生達にもつかってあげようとしたのが次にあげる学生の心をつかむ6つの手法です。

学生の心をつかむ6つの手法

1.能動的参加
学生達は授業に参加したいと思っています。先生のワンマンショーを聞きたい訳ではありません。では、どうやって授業に参加させればいいのでしょうか。私の授業ですが、手始めに「宿題やってきた人~?」と聞いて、やってきた宿題の紙をあげさせます。ちょっと楽しいと思いませんか。宿題をやってきたことが誇らしくなりますよね。私は評価を2段階評価にしていて、S評価の欲しい人は復習のアドバンスドレポートを出して下さいと言っています。予習は全員に必ずさせていますが、復習に関してはS評価の欲しい人だけでいいよと予め伝えています。他にも発言スタンプ帳を発行しまして、授業内で何か発言をした人にはスタンプを押して10個たまったら表彰しています。参加人数が多い授業の場合、全員の前で手をあげて意見を言うのは勇気がいることです。ですからグループ質問でもOKにしています。あとは、授業内でコンテストを行ったりします。どのロゴデザインが一番良いか投票で選んでもらったり。とにかく学生が能動的に参加するような仕掛けを随所に行っています。

2.称賛演出
これは例えば拍手です。「素晴らしい質問だ!」と皆で称えます。学生が全員の前で手をあげて発言する。それだけでもとても素晴らしいことだと認めて、手を挙げた学生に伝えるわけです。よく受ける質問で、答えが間違っていた時はどうするんですかと聞かれますが、そこは「するどいね!」「ユニークな考えだ!」と言葉を変えて称賛します。先生の中には学生が間違った答えを言うと「ああそれは違うね」と平気で言ってしまう方がいますが、そこは違う言葉を使って、手を挙げて発言した学生を称賛して欲しいですね。手を挙げて良かったという雰囲気を作って欲しい。

3.即時フィードバック
私の授業ですが、学生には授業の終わりに当日の授業を振り返ってもらい、レポート書いてもらいます。そして次の授業の一番はじめに先週提出してもらったレポートの振り返りを行います。先週の授業の内容で一番多いコメントはこれでした、こんな意見もありましたと発表します。学生に対しては、なるべくすぐにフィードバックをしてあげます。私はメールでも質問を受けたらすぐに返すように心がけています。

4.自己表現
学生が一番喜ぶのはグループワークですね。グループワークで自分の意見を発表して他の人が「へぇー」と聞いてくれるのがすごく嬉しいんです。私の授業では毎回予習として次回の授業の内容を調べてきなさいと課題をだしています。そしてグループで話し合ったことを、例えばグループAから順番に皆の前で発表してもらいます。学生達にとって自分の調べてきたことを友人に認めてもらえるのはすごく嬉しい。ここで言えることは、学生にとって重要なのでは先生の評価ではなく、仲間の評価の方が大事だと言うことです。

5.成長の可視化
ゲームってスコアがあるんですね。キャラクターが進化するとかレベルが上がるとか。しかし大学の授業ってレベルがあがります?大学の授業で課題を出すとスコアってあがりますか?私はそれを学生に対してやってあげたかったんですね。ですからどうやったらレベルがあがるのか。そのルールを明確化して学生達に示したわけです。成績の中間発表もしています。成績上位者を檀上にあげて褒め称えたわけです。そして最後には一番成績のよかった学生には表彰状をあげています。

6.達成可能な目標設定
授業のはじめには、毎回今日のゴールを設定し学生に伝えます。達成可能な低めのゴールです。そして評価システムの開示を第1回目の授業で行っています。私の授業の例ですが、各回の課題レポート提出1ポイント、振り返りの自主的なレポート1ポイント、特別課題への自主的提案1ポイント、授業内での自主的発言1ポイントと決めています。ゲームと同じで何かをするとポイントがどんどん溜まりますよと学生には明確に伝えています。

ゲーミフィケーションで解決~ノート取り編

ここで学生にノートを取らせるために私が行ったことをご紹介いたします。まずノートをどれくらいの人数が取っているのかアンケートを取りました。ノートを取らない人の割合は28%でした。ノートを取らない学生に対して「今大事なこと言ってるからノート取りなさいね。ほらほら何でノート取らないの!」とは言いません。ではこの28%にノートを取らせた上で、尚且つ理解度をあげるにはどうしたらいいのか。そこで授業の終わりに振返り○×クイズをすることにしました。大きく手をあげてジェスチャーで○とか×を全員でやってもらいます。しかし問題はとても簡単です。間違えたら恥ずかしいレベルです。ここでも学生達にとって大事なことは、仲間の前でバカにされたり、間違えて恥をかきたくないということなのです。先生の評価はそれほど重要ではないのです。そこで私はボソっと「ノート取っておくと間違えないよね」とさりげなく言います。仲間の前で恥をかきたくないからノートを取るようになりました。後日のアンケートでは、ノートを取らない割合が14%に減った上、理解度も94%になりました。ノート取りに対する学生のコメントを発表しますと、「振り返りクイズが始まってから自然とメモを取り始めていて、とても良い試みだと思った。」「他の授業でもノートを取るように心がけるようになった。」など、前向きなコメントが出てくるようになりました。このノート取りに使われているゲーミフィケーション要素は「能動的参加」「称賛演出」「即時フィードバック」「成長の可視化」「達成可能な目標設定」です。

20160517FDワーク

ここで、本日の振り返りと題して参加者全員で○×クイズを行いました。問題は本日の講義をきちんと聞いていればできる、簡単なクイズ3問です。岸本先生が問題を出すたびに、全員で大きく手をあげて○か×を作ります。ただ座って聞いているだけの講義の中でメリハリも生まれ、参加者間も和やかなムードになりました。

ゲーミフィケーションは万能ではない

「ゲーミフィケーション授業」は全て素晴らしい!と言うのはうそです。全部が良いわけではありません。もちろん問題点もありますので代表的なものをお伝えします。
1つめ、みんながゲームを好きなわけではない。大学であってもゲーム好きは40%くらいですね。一般的にどの世代をみてもゲーム好きは30%くらい。大学生なので40%位にはなりますが、大学生全員ゲームが好きなわけではありません。
2つめ、どの教員も私と同じような授業ができるわけではない。みなさんこんなことできますか?ちょっとお笑い芸人っぽいですよね。エンターテイメントスキルはやはり必要です。
3つめ、ゲーミフィケーションは飽きます。ミニゲームを続けてみても、いつも同じでは飽きてくる。ネタをどんどん変えていかなければいけないのはあります。

面白おかしい授業を全員の先生がやる必要はないとは思いますが、沢山の事例を聞いて、これだったら自分でも取り入れることができるかなと少しでもヒントになればと思います。すぐには学生達も変わらないので、少しずつ学生達のやる気に繋がっていければと思います。私の考える未来の授業は学生・生徒・児童たちが「遊ぶように学ぶ」授業を実現させたい。私の試みとして、ゲーミフィケーションという手法を使ってそれを実現させたいと思っております。


以上が岸本先生のお話です。岸本先生の講義はエンターテイメントにあふれていて、聞いている者が飽きないよう工夫されています。面白いゲームを構成する上での「6つのノウハウ」と、学生をやる気にさせる為の「6つの手法」。ゲームと教育がプレイヤー(学生)を惹きつける為にはどうすればいいのか、同じ観点から見ているのはとても面白いと思いました。全ての授業に遊びを取り入れることは難しいとは思いますが、部分だけでも先生方の授業運営のヒントになれば幸いです。