2017.06.20
東京国立博物館で「特別展茶の湯」があり、念願だった国宝「曜変天目茶碗」を拝観しました。20代から30代にかけての一時期、大藪春彦という作家の日本版ハードボイルド小説を愛読し、中でも伊達邦彦シリーズを好んで読んでいました。このシリーズの最終作に、曜変天目茶碗が主役として登場します。主人公が見つけた、世界を大改革する物質をこの茶碗のなかに隠し、それを奪おうとする勢力との攻防を語る小説です。
曜変天目茶碗とは、中国南宋時代に現在の福建省建陽市付近で焼かれた漆黒の茶碗で、中に星のようにもみえる大小の斑紋が散らばり、北斗星を内蔵するかの如き輝きをみせ、時々刻々とその輝きと美しさが変化することから、所有する人の運勢の輝きを示すともい
われている素晴らしい器です。実物を初めて見てその美しさを実感するとともに、星がきらめくように見える耀変(本来この字が使われていたようです)ぶりに魅せられて、長いこと動けずにいました。
小説の作者大藪氏は、宇宙を内蔵するかのごときこの曜変天目茶碗こそ、大改革物質の収納場所にふさわしいとして、小説に主役に据えたのだと思いますが、実物を見て素直に納得でき、改めて深く感動しました。
この曜変天目茶碗は、完全なものが世界に3 碗しかなく、かつその3 碗とも日本にあり、発祥の地中国にはまったく存在しないという不思議な茶碗です。さらに星のきらめくような斑紋が、どのような構造から創りだされるのかが解明されておらず、再現は不可能と言われています。
このような美しい茶碗の存在は人類の素晴らしい文化であり、より美しい茶碗を作り出せれば、人類は文化的により豊かになれると思います。発達している現代の科学技術でも、まだ解明できない現象があることを思い知らされるとともに、より美しいことを求めて、まだまだ科学技術の発展と努力が必要なことを痛感いたしまた。
☆☆☆学長メッセージ 第13号(2017.6.20)☆☆☆
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