2016.07.20
西宮市にある潁川美術館所蔵の国宝・重要文化財である赤楽茶碗「無一物」が、渋谷の松濤美術館で展示されたので鑑賞に出かけました。安土桃山時代の陶芸の代表作として知られていますが、私はそれよりも利休と秀吉の葛藤を物語る作品として大変興味を持っていました。西宮市に行く機会を得ず、残念に思っていたところだけに、東京での展示は本当に嬉しく、心踊る思いで松濤美術館を訪ねました。
展示作品の中央に鎮座している、長次郎作「無一物」を目の当たりにした時は、時が止まったような感覚で眼前の「無一物」に吸い込まれていました。土から出来た茶碗が自らの存在を恥じらうかのごとく赤く染まった趣で、荒々しい肌にもかかわらず可愛いと、時がたつのも忘れて眺めておりました。
ふと思ったのは、利休は何故「無一物」との銘を与えたのかということでした。禅語に「本来無一物」という言葉があります。「すべてが無い」との心境を会得するところから悟りが開けるとのことですが、「無一物」という銘を持つこの茶碗の存在とはどういうことなのでしょうか。この茶碗は、秀吉の命により利休が長次郎に依頼して造らせた茶碗なのですが、利休の愛好する「黒」ではなく「赤」で造られたのは秀吉の命だったそうです。利休はこの茶碗の存在を無き物にしたかったのだろうかとも推理させる「銘」なのかなと、現実を忘れて安土桃山時代へワープしたひと時でした。
悟りは開けませんが「無一物」からの出発は無限の力を生みそうです。
☆☆☆学長メッセージ 第4号(2016.7.20)☆☆☆
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